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渡航医学の専門医に聞く留学時のワクチン接種と
留学生へのアドバイス〜ワクチン接種は留学前の準備のひとつです〜

学生の疑問にお答えいただいた先生

東京医科大学病院 渡航者医療センター
准教授 福島 慎二 先生

福島慎二先生
留学生

建築学の勉強のために、来年からニューヨークの大学に留学予定です。留学先では寮生活をおくる予定なので、現地の方だけでなく、様々な国から来る他の留学生との交流もとても楽しみです。

受験や新生活の準備だけでも頭がいっぱいなのに、留学説明会でワクチン接種が必要だと聞き、よくわからなくて困っています。
先生、留学の準備のためのワクチン接種について教えてください。

Q1留学のパンフレットに記載されているワクチンの中には、聞いたことがないものもありました。
私たちが子どものころに接種したワクチンと、留学のときに接種が必要なワクチンはどうして違うのでしょうか?
A1

留学の際に紹介されるワクチンの中には、日本の予防接種スケジュールに含まれていないものもあります。
それは、紹介されるワクチンが留学中に現地でかかるリスクの高い感染症を予防するためのもので、国によってリスクの高い感染症が異なるからです。

ワクチンは感染症の発症、重症化を予防する目的で接種します。
留学先から紹介されたワクチンは、接種することをおすすめします。

留学の際に紹介されることの多いワクチン
ーアメリカに留学する場合の例ー
日本で承認されているワクチン
  • 麻しん(はしか)、風しん
  • 水痘(みずぼうそう)
  • 流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)
  • B型肝炎
  • 髄膜炎菌(4価:A、C、W、Y群)
  • ポリオ
  • HPV(ヒトパピローマウイルス)
  • インフルエンザ など
日本で承認されていないワクチン
  • Tdap(ジフテリア、破傷風、百日咳の混合ワクチン)
  • 髄膜炎菌B群 など
*10歳代以降の追加接種用3種混合ワクチン、国内未承認
福島慎二先生

日本の予防接種スケジュールに含まれていないワクチンは、聞きなじみがないかもしれません。
日本で聞きなじみのないワクチンを紹介されるということは、留学先で感染リスクが高い可能性があるということだと考えましょう。

Q2ワクチンは、留学のどのくらい前に接種すればよいでしょうか?
A2

接種が複数回必要で、接種を完了させるために半年程度かかるワクチンもあります。
留学の説明を受けて留学に必要な提出書類が手に入り次第、医療機関に相談しましょう。

留学の際には、ワクチン接種のみではなく、健康診断や各種検査に関する書類の提出を求められることがあります。
書類の締め切り日から逆算して接種や検査のスケジュールをたてる必要があるため、以下の事項を確認し、医療機関に相談してください。

留学に必要な提出書類が手に入り次第、確認するべき事項
  • 書類の締め切り日
  • 提出が必要な書類の内容
    • 健康診断の項目、検査の内容
    • 必須(Required)、推奨(Recommended)のワクチンの種類と回数
  • 自分のワクチン接種歴(母子健康手帳、ワクチン接種証明書など)
ワクチンの接種歴がなく罹患歴がある場合(おたふくかぜ など)は、別途検査が必要となるケースがあります。
福島慎二先生

例えば、B型肝炎ワクチンは、今の高校生くらいの世代だと接種を受けていない人が多く、間隔をあけて3回の接種を行う必要があるため、接種完了までに約半年と長い時間がかかってしまいます。
留学直前に慌てないように、できるだけ早く相談してください。
医療機関を受診するときには、母子健康手帳を持参しましょう。

Q3留学について相談する医療機関は、どのようにして探せばよいでしょうか?
A3

留学の際は、一般の医療機関では対応していないワクチンの接種や健康診断の項目、書類の作成を求められることがあります。
それらの対応を含めて、しっかりトータルマネジメントができる医療機関を選ぶのがよいでしょう。

留学に関する医療相談は、トラベルクリニック、渡航外来と呼ばれる医療機関にて対応可能です。
もちろん、一般的な医療機関でもワクチンの接種は可能ですが、留学の際に接種が必須となるワクチンの中には、対応が困難なワクチンもあります。
また、留学の対応に慣れている医療機関の方がスムーズに接種ができる場合があります。

医療機関選びのポイント
留学に必要な以下の対応が可能で、トータルマネジメントができる医療機関を選ぶ
  • ワクチン接種
  • 健康診断
  • 検査
  • 書類の作成
福島慎二先生

受診する医療機関は、必ずしもトラベルクリニックである必要はありません。
例えば、何か基礎疾患がある場合は、かかりつけ医にその基礎疾患に関する診断書を書いてもらった方がよいようなケースもあります。
まずは、留学に必要な書類を確認して、医療機関に相談しましょう。
それぞれ特色がありますので、自分にあった医療機関を探してみてください。

予防接種など侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)
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Q4紹介されたワクチンには、接種が「必須(Required)」とされているものと「推奨(Recommended)」とされているものがありました。「必須」でない場合は、接種しなくても大丈夫でしょうか?
A4

まず、留学先から「必須(Required)」とされたワクチンは必ず接種しましょう。
「必須(Required)」でなくても、推奨(Recommended)とされているワクチンは、留学中に感染しやすい感染症を予防する目的で選ばれているので、できるだけ接種することをおすすめします。

接種ワクチンを医学的に検討する場合、まず「感染症の特徴」と「ワクチンの特徴」を考えます。
「感染症の特徴」として、感染症にかかる確率が高く、かかったときの重症度が高いものであれば接種するメリットがあります。
また「ワクチンの特徴」として、有効性が高くかつ副反応が少ないものであれば接種をおすすめします。

福島慎二先生

必須ではないから、接種が必要ではないということはありません。
悩んだら、ぜひ医師に相談してください。

留学先によって、必須や推奨とされるワクチンの種類や回数が異なります。
また同じ留学先でも、留学する年によって、求められるワクチンの種類や回数が異なることがあります。
留学時に求められるワクチンと自分の接種歴を確認し、接種していないワクチンがある場合や回数が少ない場合は、留学前に接種しましょう。

留学時に求められるワクチンの例

例1 例2 例3
必須
  • 麻しん(はしか) 2回
  • 風しん 2回
  • 流行性耳下腺炎
    (おたふくかぜ) 2回
  • 水痘(みずぼうそう) 2回
  • B型肝炎 3回
  • 髄膜炎菌(4価)1回
  • Tdap 1回
  • ポリオ 計3回以上
  • 麻しん(はしか) 2回
  • 風しん 2回
  • 流行性耳下腺炎
    (おたふくかぜ) 2回
  • 水痘(みずぼうそう) 2回
  • B型肝炎 3回
  • 髄膜炎菌(4価) 1回
  • Tdap 1回
  • インフルエンザ 年1回
  • 麻しん(はしか) 2回
  • 風しん 2回
  • 流行性耳下腺炎
    (おたふくかぜ) 2回
  • 水痘(みずぼうそう) 2回
  • 髄膜炎菌(4価) 1回
  • Tdap 1回
推奨
  • HPV 3回
  • インフルエンザ 年1回
  • 髄膜炎菌(B群) 2~3回
  • HPV 3回
  • 髄膜炎菌(B群) 2~3回
  • B型肝炎 3回
  • HPV 3回
  • インフルエンザ 年1回
  • 髄膜炎菌(B群) 2~3回
  • ポリオ 計3回以上
Tdap:ジフテリア、破傷風、百日咳の混合ワクチン(10歳代以降の追加接種用3種混合ワクチン、国内未承認)
HPV:ヒトパピローマウイルス
*:国内未承認のワクチン
世界各地の感染状況や医療事情について
知るのに便利なサイト(外部サイト)
Q4+α
侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)予防のためのワクチンの接種を例に考えてみましょう

侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)を例に、感染症の特徴である「①感染するリスク」と「②感染した場合の重症度」についてみていき、ワクチンを接種するメリットを考えてみましょう。

①感染するリスク

感染するリスクは、留学後に「留学前より感染する確率が高くなる生活をするかどうか」と考えるとわかりやすいでしょう。日本からアメリカに留学し、寮生活を送る場合のリスクを比べてみましょう。

発症率(2019年) 保菌率※3 生活環境
留学前
(日本で家族と同居)
0.04例/10万人※1 約0.4% 家族のみと同居
留学後
(アメリカで寮生活)
0.11例/10万人※2 5~20%
(世界的な保菌率)
寮生活
留学先での
リスクなど
IMDの発生が多くみられるのはアフリカ中部の「髄膜炎ベルト」と呼ばれる地帯です。またアメリカ、オーストラリア、イギリス、カナダなどの先進国でも流行を繰り返しています。 日本人は世界的にみて保菌率が低く、海外留学をする日本人は一般的に元の環境より保菌率が高い集団の中で、免疫を持たずに過ごすことになります。 寮生活は、流行国も含めた様々な国から来た学生や様々なワクチン接種歴をもつ学生との共同生活になります。ルームシェアの場合はその相手が、ホームステイの場合はその家族が、寮生活の場合は寮生のうちの誰かが保菌している可能性があります。
福島慎二先生

このように比較してみても、アメリカで寮生活を送ることは、確率論的に今いる環境よりIMDの感染リスクが高いといえるでしょう。日本では髄膜炎菌はあまり聞きなじみがないかもしれませんが、それは日本での感染例が比較的少ないという背景があるからです。
一方、アメリカで髄膜炎菌ワクチンの接種が行われているのは、実際に感染が起こっているからです。
アメリカでは、2013~2017年に20の大学のキャンパスで感染が報告されています※4
このような環境に留学するのであれば、日本よりも感染するリスクが高いと考えられるので、ワクチンを接種するメリットがあります。

IMDの感染リスクについて
詳しくはこちら
よくわかる髄膜炎菌どんな人が感染しやすいの?
②感染した場合の重症度

侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)は、「気づきにくい」「進行が早く死亡率が高い」「後遺症が残る確率が高い」ことが特徴です。
IMDは、はじめの症状が風邪に似ているため、自分で判断しにくく、早い段階で治療を受けることが難しい感染症といわれています。
その一方で症状の進みが早く、発症するとたった1~2日で命に関わる状態になってしまうことがあります※5。また、命をとりとめた場合でも5人に1人の割合で手足の切断や、耳の聞こえにくさ、言語障害や記憶障害などの後遺症が残ってしまうことが報告されています※6

IMDの経過※7
IMDの経過
福島慎二先生

IMDは、10代後半の思春期も発症数が多いことがわかっており※8、渡航先や年齢に関わらず、感染した場合の重症度が高い感染症であるといえるでしょう。
特に、以下のような条件にあてはまる方は、留学前に髄膜炎菌ワクチンの接種をおすすめします。

留学前に髄膜炎菌ワクチンの接種が推奨される方
  • 流行国(アフリカ髄膜炎ベルト地帯など)へ留学される方
  • 予防接種スケジュールに、髄膜炎菌ワクチンが含まれている国や地域に留学する方
  • 寮生活など集団生活を送る方、ホームステイなど現地の人と共同生活を送る方
  • マスギャザリング・イベントに参加する方
IMDの症状について
詳しくはこちら
よくわかる髄膜炎菌どんな症状?
  • ※1 国立感染症研究所 発生動向調査年別報告数一覧(全数把握), 五類感染症(全数)
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/ydata/10410-report-ja2020-30.html (2023年2月20日アクセス)
  • ※2 CDC, Meningococcal Disease, Surveillance, Last Reviewed: March 6, 2023
    https://www.cdc.gov/meningococcal/surveillance/index.html (2023年4月18日アクセス)
  • ※3 国立感染症研究所 IDWR 2005年第20号, 髄膜炎菌性髄膜炎とは
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/405-neisseria-meningitidis.html (2023年2月20日アクセス)
  • ※4 The National Meningitis Association, Serogroup B Meningococcal Disease
    https://nmaus.org/nma-disease-prevention-information/serogroup-b-meningococcal-disease/ (2023年2月20日アクセス)
  • ※5 国立感染症研究所 侵襲性髄膜炎菌感染症発生時対応ガイドライン〔第一版〕2022年3月31日
    https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/imd/imd-guideline-220331.pdf (2023年2月20日アクセス)
  • ※6 WHO Fact sheets “Meningitis”, 17 April 2023
    https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/meningitis (2023年6月20日アクセス)
  • ※7 Thompson MJ, et al.: Lancet 367; 397-403, 2006より作図
  • ※8 厚生労働省 侵襲性髄膜炎菌感染症
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000137555_00002.html (2023年4月26日アクセス)

留学前のワクチン接種の流れ

東京医科大学病院 渡航者医療センターでのワクチン接種の一例
①受付・予約
受付・予約

留学前のワクチン接種の予約をしたいのですが...

受付・予約

留学前のワクチン接種ですね。
留学の書類一式と、母子健康手帳のコピーを送っていただけますか。

福島慎二先生

私の場合、まず留学の書類と母子健康手帳のコピーをPDFで送っていただいています。
それを私が確認し、ワクチン接種や検査のスケジュールを組んでいきます。

②初回受診
初回受診
福島慎二先生

受診された方と一緒に母子健康手帳で接種歴をみて、留学先から紹介されたワクチンのうち接種済みのものにチェックを入れながら、不足しているワクチンについて説明をしています。

例えば、留学を希望する「Aさん」が受診された場合、まずは留学先から紹介されたワクチンの種類・回数とAさんが接種済みの種類・回数を確認していきます。
それに対して不足するものを接種して、留学先からの紹介内容=接種歴+留学前接種になっていればよいというのが基本的な考え方です。

留学先から紹介されたワクチンと接種歴(Aさんのケース)

留学先から紹介された
ワクチンの種類
回数 Aさんの接種歴 Aさんが留学前に
必要な接種回数
麻しん(はしか) 風しん 流行性耳下腺炎(おたふくかぜ) 2回 2回 2回 2回 2回 1回 不要 不要 1回
3種混合ワクチン(MMR)として2回接種 2種混合ワクチン(MR)として2回、
流行性耳下腺炎を1回接種
水痘(みずぼうそう) 2回 1回 1回
Tdap 1回
(DPT接種から
10年以上の場合)
0回 1回
ポリオ 3回以上 経口生ワクチン 2回 少なくとも 1回
B型肝炎 3回 0回 3回
髄膜炎菌 1回 0回 1回
Tdap、DPT:ジフテリア、破傷風、百日咳の混合ワクチン(Tdapは10歳代以降の追加接種用3種混合ワクチン、国内未承認)

接種が必要なワクチンと回数を確認できたらそれをもとに接種スケジュールを組みます。

留学前の接種スケジュール(Aさんのケース)

留学前に接種する
ワクチン
接種日① 接種日② 接種日③
流行性耳下腺炎
(おたふくかぜ)
水痘
(みずぼうそう)
Tdap
ポリオ
B型肝炎
髄膜炎菌
Tdap:ジフテリア、破傷風、百日咳の混合ワクチン(10歳代以降の追加接種用3種混合ワクチン、国内未承認)

接種歴と接種スケジュールから作成した接種ワクチン一覧(Aさんのケース)

が入っている は、留学先から紹介されたワクチンのうち、接種済みのものです。
が入っていない は、留学先から紹介されたワクチンのうち、接種が不足しているもののため、留学までに接種を行います。

接種ワクチン一覧 イメージ画像 Tdap:ジフテリア、破傷風、百日咳の混合ワクチン(10歳代以降の追加接種用3種混合ワクチン、国内未承認)
③必要回数の受診
受診
④各種証明書などの発行
各種証明書

福島先生から留学を考えているみなさんへのメッセージ

福島慎二先生

これから留学を考えているみなさんは、新しい生活や夢に向かっての第一歩に胸を弾ませていることと思います。留学先では、これまでとは違う環境に身を置き、背景の違う人と出会うことで、かけがえのない経験がえられるでしょう。

しかし、それは感染症という面から考えると、場合によってはリスクの高い環境に飛び込んでいくということにもなります。留学時に推奨されるワクチンは、その感染症のリスクから身を守るためのものです。

留学が決まったら、まずは医療機関にご相談ください。
私たち医療従事者が、みなさんが安心して留学できるようにサポートします。

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