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お医者さんからのメッセージ
Vol.3 川崎医科大学 中野貴司先生

Vol.3 川崎医科大学 中野貴司先生

学校(集団生活)におけるIMD予防の意義
〜国内にもある感染のリスクとワクチンの導入〜

IMDは10歳代後半での発症が多い病気であり、学校保健安全法において「学校で予防すべき感染症」の一つに定められています※1。学校のような集団生活における感染のリスクと予防について、世界各地で小児の感染症対策に従事されたご経験を持つ中野貴司先生にお話を伺いました。

中野貴司先生

中野 貴司
(なかの・たかし)

川崎医科大学小児科学教授。信州大学医学部卒業後、三重大学医学部小児科、ガーナ共和国野口記念医学研究所、中国ポリオ対策プロジェクトなどを経て2010年より現職。世界各地で感染症対策に従事、国内の予防接種体制の整備にも尽力している。

学校のような集団生活において感染拡大のリスクが高くなる

国内の侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)の患者数は?

2014年におけるIMDの国内の報告数は37例でした。この数字を多いとみるか少ないとみるかは比較の対象によりますが、例えば同じ5類感染症でよく知られている風しんは321例、麻しんは463例などとなっています※2。これらの疾患と比べれば、IMDは頻度の低い疾患といえます。髄膜炎菌のように細菌性髄膜炎を引き起こす細菌として、ヒブ(Hib:インフルエンザ菌b型)や肺炎球菌が知られていますが、ワクチン導入前の日本における細菌性髄膜炎菌の患者数は年間約1,000人で、そのうちヒブによるものが約600人、肺炎球菌によるものが約200人とされていますので、細菌性髄膜炎の中でも髄膜炎菌感染症は多くないといっていいでしょう。

国内でも感染のリスクはありますか?

日本は海外に比べ、患者の報告数は少ないです。保菌者について国内の新しいデータは公表されていませんが、保菌者の数もおそらく少ないと思います。したがって、国内における感染リスクは海外に比べて低いといえますが、リスクがないわけではありません。グローバル化に伴い、国外から髄膜炎菌が持ち込まれる可能性が高くなっているとも考えられます。ヒトに感染症を引き起こす髄膜炎菌にはA、B、C、Y、W135の5つの種類(血清群)があります。すべての症例の血清群が調べられているわけではありませんが、報告されているデータを見ると、変化がみられます。以前はBが多かったのが2000年代に入ってYが増え、最近では少なかったCの報告が増えてきているようです。正確なことはわかりませんが、いろいろな地域からいろいろなタイプの髄膜炎菌が持ち込まれているのかもしれません。

感染のリスクが高い年齢層は?

どの年代にも感染のリスクはありますが、世界的にIMDの発症数が多いのは、乳幼児と10歳代とされており、死亡率も10歳代で最も高くなることが報告されています※3。国内のデータを見ると年によってばらつきはあるものの、トータルでは欧米と同様に10歳代後半と乳幼児での発症が多くなっています※2

学校のような集団生活において、感染が広がるリスクが高いと考えていいのでしょうか。

IMDを引き起こす髄膜炎菌は、くしゃみなどによって飛沫感染します。IMDに限らず飛沫感染や空気感染により広がる感染症は、集団生活において感染拡大のリスクがより高くなります。ヒブや肺炎球菌の感染症にかかりやすいのは就学前の5歳未満のお子さんですが、IMDは10歳代での発症が多いため、学校生活において注意すべき感染症といえます。接触が密であるほど感染のリスクは高まるので、学生寮のように若者が衣食住を共にする場合は、より注意すべきです。

劇症化すると命に関わることも、ワクチンによる予防が有効

2012年、髄膜炎菌性髄膜炎は学校保健安全法が定める学校感染症に追加されました。

学校保健安全法は学校において予防すべき感染症を定めたもので、髄膜炎菌性髄膜炎はインフルエンザ、麻しん、風しんなどとともに、「第二種感染症」(空気感染又は飛沫感染するもので、児童生徒等の罹患が多く、学校において流行を広げる可能性の高い感染症)に規定されています。髄膜炎菌性髄膜炎が第二種感染症に追加されたきっかけは2011年、宮崎県の高校の寮で集団発生が起き、死者が出たことでした。インフルエンザなどに比べると患者数が少なく、まれな病気ですが、命に関わる重篤性が考慮されて、法改正に至ったのだと思います。

重症化を防ぐには?

IMDには進行が非常に速いという場合もあります。また、薬が効いてすぐに治るケースがある一方で、劇症化する症例では適切な対応をしても病気の進行を食い止めることがとても難しい。免疫力が低下していれば、かかりやすく重症化しやすいと思いますが、健康な人が劇症化することもあります。健康なティーンエイジャーが罹患して、すみやかに治療をしても命を救えなかったり、命をとりとめても後遺症を残したりするリスクがあることが、この病気の重さです。ワクチンによる予防が重要です。

IMDのワクチンについて教えてください。

IMDはVPD(Vaccine Preventable Diseases;ワクチンで防げる病気)の一つです。海外ではIMDを予防するワクチンが承認・使用されており、IMD予防への有効性・安全性が示されています。日本では、2014年7月に国内初となるワクチンが承認されました。補体欠損、機能的あるいは解剖学的無脾症があるハイリスク児にとって、IMDのワクチンは不可欠です。アフリカなどの流行地域へ渡航する人にとっても必要なワクチンです。アメリカでは軍隊の入隊時や大学の入学・入寮時にIMDの予防接種が推奨または義務づけられていることがあるため、留学にあたって必要になることもあります。

予防対策の第一歩はIMDやワクチンについての正しい知識が普及すること

ワクチンがすでに導入されている国では、どのように使われていますか?

国によって異なりますが、日本で承認されたワクチンはアメリカで使われていますので、アメリカの例を挙げると、感染リスクが高いとされる10歳代後半から20歳代での感染を防ぐため、11〜12歳に1回目の接種をし、さらに16歳で2回目の接種をすることが推奨されています。前述の通り、集団生活を営む軍隊や大学において入隊時や入学時に予防接種が推奨、または義務づけられていることも多いです。
海外では、患者が発生したときにワクチンが一斉投与された例も報告されています。

患者が発生したときワクチンはどのように使われるのでしょう?

流行地域にワクチンを導入することは、感染症対策の基本です。IMDの患者が発生した場合、濃厚接触者に予防内服を行うとともに、ワクチンを投与することが感染拡大を防ぐのに有効かつ重要です。例えば学校で起きたのであれば寮生やクラスメイトにワクチンを投与することが考えられます。実際にワクチンを投与するのかどうか、誰に投与するのかは、状況に応じて判断することになるでしょうが、ワクチンが導入され感染拡大を防ぐ手立てが増えることは非常に有意義なことだと思います。

IMD予防の重要性は、学校関係者や保健医療関係者に周知されていますか?

IMDがどのような疾患であるのかも、よく知られていないと思います。多くの人にとって身近な病気ではなく、認知度は低いのが現状です。欧米では、VPDはワクチンで予防するという概念が定着しています。IMDという子どもの命にかかわる病気が知られておらず、ワクチン接種という選択肢もなかったという点で、日本は欧米に比べ立ち遅れていました。ワクチン導入を機に、これからの未来を担う子どもたちや思春期世代の命を守るため、多くの人がIMDとワクチンについて正しい知識を持つことが望まれます。それが予防対策の第一歩になるのではないでしょうか。

※1 文部科学省:「学校において予防すべき感染症の解説」
http://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/hoken/1334054.htm(2015年3月25日アクセス)
※2 国立感染症研究所:感染症発生動向調査 感染症週報
http://www0.nih.go.jp/niid/idsc/idwr/IDWR2014/idwr2014-52.pdf(2015年3月25日アクセス)
※3 American Academy of Pediatrics:PEDIATRICS 2005;116:496

最終更新日:2015年4月21日

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