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お医者さんからのメッセージ
Vol.2 国立病院機構三重病院 谷口清州先生

Vol.2 国立病院機構三重病院 谷口清州先生

国内におけるIMDアウトブレイクのリスクとその対応
〜感染拡大を防ぐ速やかな診断・治療と予防投薬〜

IMDは人から人へ感染する病気です。
感染者が確認されたとき、どのような方法で感染拡大を防ぐことができるのか、2011年に宮崎県の高校で起きたアウトブレイクに対応なさったご経験をお持ちの谷口清州先生にお話を伺いました。

谷口清州先生

谷口 清州
(たにぐち・きよす)

国立病院機構三重病院 臨床研究部 国際保健医療研究室長。国立感染症研究所
客員研究員。三重大学医学部小児科学教室、ガーナ国野口記念医学研究所、国立三重病院小児科、国立感染症研究所感染症情報センター、WHO感染症対策部などを経て2013年より現職。

宮崎県の高校で起きたアウトブレイク
高校生1名が亡くなり社会的にインパクトを与えた

2011年、宮崎県の高校でIMDのアウトブレイクが起きました。

運動部の寮で男子生徒4名、寮母の女性1名の計5名の患者が発生し、生徒1名が亡くなりました。元気な運動部の生徒たちの間で起こったこと、1人が急激な悪化をきたして命を落としたことがメディアでも取り上げられるなど注目を集め、社会的にインパクトを与えました。
亡くなった生徒さんは5月13日早朝、寮の食堂に出てきたところで倒れて救急搬送され、まもなくショック状態に陥り、その日のうちに亡くなりました。

当時、ご所属されていた国立感染症研究所でアウトブレイク対応をなさったそうですね。

現地へ出向き、疫学調査や保菌調査などの技術的支援を行いました。予防投薬は英国のガイドラインに基づいた濃厚接触者のほか、感染拡大予防措置として、希望者も対象としました。学校全体の保護者会を開いて説明をしましたが、心配だという声がとても多かった。元気な生徒さんが突然、命を落とすという事態に直面した先生方、保護者の方々のショック、不安は非常に大きいものでした。

他にどのような対応をされましたか?

接触機会のあった生徒に保菌調査を行った結果、33名中4名が保菌していました。国内の通常の保菌率はこれまで約0.4%とされていますので、これは高い数字だったと言えます。
そのほか、IMDが地域に広がっていないかどうかを確認するため、地域の医療機関に対して髄膜炎菌への注意喚起を図るとともに、該当するような患者さんが受診していないか情報提供を求め、注意深く見守りましたが、その後学校以外での患者発生もみられることなく終息しました。

亡くなった患者さん以外は軽症だったのですか?

他の4名も髄膜炎や敗血症と診断されており重症でしたが、治療を受けて軽快しています。IMDは抗菌剤による治療が可能な病気ですが、急激に悪化して命を落とす事例があります。このため疑われた時点での早期治療が重要ですが、IMDの初期症状は発熱、頭痛、嘔吐などで特徴的なものがなく、早期診断は簡単ではありませんし、発症後電撃的に悪化することもあり、治療出来るタイミングが非常に短いことが問題です。

宮崎県の事例がきっかけとして法律が改正
IMD、髄膜炎菌性髄膜炎の重要性を再認識へ

宮崎県の事例が起きた後、法律が改正されました。

感染症法において、5類感染症の「髄膜炎菌性髄膜炎」が「侵襲性髄膜炎菌感染症」(IMD)に変更され、髄膜炎だけでなく敗血症なども含まれることになりました※1。これによって、予防投薬などの対策を、より迅速にとれるようになったと思います。
一方、学校保健安全法では、髄膜炎菌性髄膜炎が第2種の学校感染症に追加されました ※2。宮崎県の事例と法改正が学校関係者にこの病気の重要性を認識させる契機になったのではないでしょうか。

そのほかに国内のアウトブレイク事例はありますか?

一般的に、疫学的に見てつなかがりのある2例以上の同一疾患の発生を「アウトブレイク」と言いますが、WHOによると本来その国や地域で認知されていない感染症が発生した場合は、1例のみの発生でもアウトブレイクと考えます※3。例えば、今エボラ出血熱やSARS(重症急性呼吸器症候群)が国内で1例でも報告されたらアウトブレイクと考えます。
IMDの患者さんの数は少ないですが、国内でも発生しています。1991年には岐阜県で家族内感染の事例も報告されています。近年、集団生活において複数の患者さんが発生したのは宮崎県の事例のみですが、IMDは1〜2例でもアウトブレイクと考えるべきものであり、これらを含めると過去には愛媛、大阪、千葉、東京、奈良、三重から報告があります。

アウトブレイク対応において重要なのは
サーベイランスによる早期探知と予防投薬を含む迅速な対応
ワクチンも選択肢のひとつに

患者さんが確認されたときの一般的な公衆衛生対応を教えてください。

患者さんに対し適切な治療を行うとともに、感染の広がりを防ぐため、すぐに関係者なだにインタビューをして患者さんと濃厚接触をした人を特定し、予防投薬を行います。濃厚接触者とは一般的には「3ft(約1m)以内の距離で、遷延する(8時間以上)接触があったか、口腔分泌物に直接接触があった人※4」と定義されますが、家族や寮生活の場合にはルームメイトのほか、場合によってはクラスメイトや同僚も当てはまります。濃厚接触者は発症率が500倍くらい高くなるとも言われます。予防投薬は14日以内であれば効果があるとされていますが、できるだけ早期に、できれば24時間以内に行うのが理想的です。また、同時に髄膜炎菌の血清型を特定することはきわめて重要で、原因となっている髄膜炎菌がワクチンに含まれる血清型で、今後地域や施設内で拡大するリスクがあれば、ワクチン接種も考慮されるべきです。
強化サーベイランスといって、地域に感染が広がっていないか確認するため、地域の医療機関に対してIMDの事例が出たことを周知し、該当するような事例があれば報告をしてもらうことも必要です。新たな患者さんが出たときの早期診断・治療にもつながります。さらに、今後のリスク評価のために、該当集団で保菌調査を行うこともあります。

消毒は必要ないのですか?

髄膜炎菌は基本的に人間の体内でのみ生きられる菌で、環境の変化に非常に弱く、人間の体から外に出ると、まもなく死んでしまいます。人から人へうつる菌であり、環境を介して感染することはないので、消毒は必要ありません。

ワクチンはどのように使うのですか?

予防投薬はそのとき限りなので、その集団や地域に髄膜炎菌が定着したと考えられるような場合は、ワクチンで長期的に予防することも考えなければなりません。過去には、メッカへ巡礼にいった人たちが髄膜炎菌に感染し、それを自国に持ち帰って世界で同時多発アウトブレイクが起きたこともあります。海外から髄膜炎菌が持ち込まれるリスクを考えると、ワクチンは重要なツールだと思います。

現在は適切な対応が速やかにとられているのでしょうか?

宮崎県の事例によって再認識された部分もあるかもしれませんが、接触者に対する予防投薬や保菌調査はそれ以前から一般的な公衆衛生対応であり、報告されている例を見ても、予防投薬や保菌調査がきちんと行われています。
ただ、診断や治療、対策が適切に行われた症例だけが報告されている可能性を否定できません。IMDは早期に治療されれば抗菌剤に対する反応も良好なので、IMDと診断されずに治っている事例や、あるいは逆に電撃的な経過で死亡して見逃されている事例もあると考えられます。早期の診断はなかなか難しいのですが、発症すると命にかかわる病気ですから、医療関係者の意識を高めて、見逃されることのないようにすることが大切です。同時に、国内でIMDのサーベイランス、保菌調査などをしっかりと行い、リスクアセスメントをしていく必要があると思います。

※1 厚生労働省:「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第12条第1項及び第14条第2項に基づく届出の基準等について」の一部改正について
http://www.pref.toyama.jp/branches/1279/kansen/kijyun/kijyun_files/kijyunkai sei-taisyouhyou130401.pdf(2016年7月26日アクセス)
※2 文部科学省スポーツ・青少年局:学校保健安全法施行規則の一部を改正する省令の施行について(通知)
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1319523.htm(2016年4月21日)
※3 World Health Organization Health topics Disease outbreaks
http://www.who.int/topics/disease_outbreaks/en/(2014年12月5日アクセス)
※4 The New England Journal of Medicine:
Prevention of Meningococcal Disease Pierce Gardner, M.D. N Engl J Med 2006; 355:1466-1473
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmcp063561(2014年12月12日アクセス)
参考資料:
国立感染症研究所感染症疫学センター:
侵襲性髄膜炎菌感染症 2005年〜2013年10月(IASR 月報 Vol. 34 p. 361-362: 2013年12月号)
http://www.nih.go.jp/niid/ja/bac-megingitis-m/bac-megingitis-iasrtpc/4176-tpc406-j.html(2014年12月8日アクセス)
国立感染症研究所感染症疫学センター:
高校男子寮における髄膜炎菌感染症の集団発生時に経験した劇症型敗血症の1死亡例(IASR 月報Vol. 34 p. 367-368: 2013年12月号)
http://www.nih.go.jp/niid/ja/iasr-sp/2258-related-articles/related-articles-406/4148-dj4065.html(2014年12月8日アクセス)
国立感染症研究所感染症疫学センター:
髄膜炎菌感染者の接触者に対する予防内服について(IASR 月報Vol. 34 p. 366-367: 2013年12月号)
http://www.nih.go.jp/niid/ja/iasr-sp/2258-related-articles/related-articles-406/4147-dj4064.html(2014年12月8日アクセス)

最終更新日:2015年1月15日

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