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お医者さんからのメッセージ
Vol.1 新潟大学大学院 齋藤昭彦先生

Vol.1 新潟大学大学院 齋藤昭彦先生

IMD(侵襲性髄膜炎菌感染症)を米国で診断・治療した経験から
〜ティーンエイジャーの健康を脅かすIMD〜

第1回目となる今回は、米国で多くのIMDの患者さんの診断・治療にあたったご経験をお持ちで、当センターのウェブサイトをご監修頂いている齋藤昭彦先生にお話を伺いました。

齋藤昭彦先生

齋藤 昭彦
(さいとう・あきひこ)

新潟大学大学院医歯学総合研究科小児科学分野 教授。1995年から2008年にかけて、カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)小児感染症科など米国の大学、小児病院に勤務。帰国後、国立成育医療研究センターなどを経て2011年より現職。

健康なティーンエイジャーも罹患
急激に悪化して命に関わる場合や四肢切断を余儀なくされるケースも

まず初めにIMDとはどのような病気でしょうか?

「髄膜炎菌」によって起こる侵襲性の感染症を総称して、IMD(侵襲性髄膜炎菌感染症)と言います。 髄膜炎菌は咳やくしゃみによって人から人へうつり、鼻やのどに付着します。それだけなら問題はなく、健康な人の鼻やのどに存在することもあります。しかし、その菌が血液や髄液に入り全身に広がると、敗血症や髄膜炎などの症状を引き起こし、場合によっては命に関わる事態に陥ってしまいます。日本ではあまり知られていませんが、健康なティーンエイジャーが命を落としたり、四肢切断に至る等のリスクを持つ病気の1つです。 米国では、IMDで亡くなったチアリーダーの少女や両足を切断したスポーツプレイヤーの大学生などがメディアで取り上げられ、この病気について広く伝えられています。発症してから24〜48時間以内に5〜10%の患者さんが死亡し※1、回復した場合でも約10〜20%の方に四肢切断などの生涯続く後遺症が残るという報告もあります※2

患者さんは、どのような経過をたどるのでしょうか。

私が診療にあたっていた米国サンディエゴ小児病院の小児感染症科では、IMDを月平均1例ほど診ていました。IMDの経過は一様ではありませんが、ティーンエイジャーの典型的な症例は、以下の様な経過です。いつも通り元気に学校に行き、スポーツなどの活動もしていたのに、突然、吐き気・嘔吐や発熱、頭痛などが現れ、近くのクリニックで風邪や胃腸炎と診断、自宅で様子をみていたところ、さらに状態が悪化して意識がもうろうとしたり、痙攣を起こしたりして家族が救急車を呼び、病院に運び込まれてきたというような病歴です。救急外来に着く頃には血圧が下がり、全身状態が悪化してショック状態をきたし、すぐにICU(Intensive Care Unit:集中治療室)に入室、様々な治療を行っても、発症から数日で亡くなってしまうこともあります。また、一命を取り留めても合併症を引き起こす場合があり、体の末梢へ血液がいきわたらないために手足が壊死すると、手足の末梢の切断ということも必要になることがあります。 一方で、軽症で済むこともあり、治療がうまくいけば後遺症などなく回復します。翌日にはすっかり元気になる患者さんもいます。 このように症状の程度や治療中・後の経過が多様であり、医師も患者さんの病状の予測が難しいことがこの病気の特徴の1つといえます。

薬物療法が効果的
進行のスピードが速いケースでは重症化を防ぐのが困難

診断・治療のポイントは?

IMDは、他の感染症との区別が難しい病気です。米国では、突然の高熱、吐き気・嘔吐、発疹、紫斑などからIMDを疑い検査をしますが、血液検査や髄液検査などは特異的な検査ではなく、また、血液、培養検査も特に抗菌薬の前投与がある場合などは、陽性となることが少ないです。残念ながら、日本ではIMDについて診断・治療の経験がある医師が少ないため、適切な診断・検査を行うのが難しい現状があります。 診断がつけば薬物療法を行います。髄膜炎菌は抗菌薬がよく効く菌であり、軽症の場合は抗菌薬を1〜2日投与すれば状態が速やかに改善します。
ただし、重症化したケースでは全身状態の管理や合併症の予防が困難になります。四肢への循環不全によって壊死が起こり手足の切断という形で後遺症を残すこともあります。10歳代の健康な方にとって、手足の切断を余儀なくされる病気はごく限られています。IMDと悪性腫瘍ぐらいではないでしょうか。

診断や治療が早ければ軽症で済むのですか?

必ずしもそうではありません。早期診断・治療は大切ですが、早期に治療を始めても重症化することがあるのが、この病気の恐ろしいところです。進行のスピードがあまりにも速く、治療をしても追いつかないことがあります。
悪化するパターンも一様ではありません。発症から急激に悪化し、すぐに危険な状態に陥ることもあれば、来院時には症状が軽いようにみえた患者さんが治療中に突然に悪化することもあり、その予測が困難です。

重症化を防ぐ手立ては?

残念ながらありません。どの患者さんが重症になるかもわからない。米国の病院では、全力を尽くして治療にあたっても後遺症を残してしまったケース、命を救えなかったケースを何例か経験しました。ICU(Intensive Care Unit:集中治療室)で治療を始める際には、この病気についてご家族にご説明しますが、さっきまで元気だったお子さんが突然命の危険にさらされる状況におかれることへのご家族の苦しみ、混乱は想像を絶するものがありました。 IMDは誰が発症するか、発症後にどのような経過をたどるかを、誰にも予測することができない病気です。子どもたちを守るためには、ワクチンによる予防が必要です。

国内にもある感染のリスク
髄膜炎菌ワクチンによる予防体制を

髄膜炎菌の感染のリスクについて教えてください。

髄膜炎菌はヒトからヒトへ咳やくしゃみを介して感染する菌です。感染しても不顕性感染※3といい発症しない人はたくさんいます。IMDの詳しい発症のメカニズムは明らかになっていません。脾臓のない方、その機能が落ちている方、補体などの免疫機能に問題がある人などはリスクが高くなりますが、健康な人でも感染・発症することはあります。
2013年4月からの1年間で国に報告された国内のIMD症例は38例でした。しかし、的確な検査・診断や報告がなされていないケースがある可能性もあり、実際にはそれよりもかなり多くの数の患者さんがいても不思議ではありません。国内での感染のリスクは低いとされていますが、潜在的な患者数を考えると、決して油断はできないと思います。

IMDがティーンエイジャーに多くみられる理由は?

残念ながら、わかっていません。10歳代では髄膜炎菌に対する免疫がまだ不十分であるために感染・発症しやすいとも考えられますが、成人の患者さんがかかることもあります。
これまでの研究により、感染の要因として指摘されているものがいくつかあります。そのうちの1つは学生寮のように人と人との接触が密な集団生活を送ることです。米国では、州により高校や大学の入学、学生寮への入寮にあたって接種しておかなければならないワクチンが決まっており、髄膜炎菌ワクチンが含まれている州がほとんどです。

日本ではIMDについて、あまりよく知られていません。

まずは医療関係者に周知を図ることが重要です。また、すでに国内で初めての髄膜炎菌ワクチンが導入されているので、保護者や学校関係者の方々にもこの病気について、そして予防の大切さを広く知っていただきたいと思います。これまでお話ししてきたように、IMDは極めて重い症状をきたしたり、深刻な合併症を引き起こすことがあり、そのリスクが懸念される病気の1つです。また、この病気は、ワクチンで予防できる病気です。IMDによって未来ある子どもたちが命の危険にさらされたり、四肢切断などの後遺症に苦しめられたりすることがないように、診断や治療に関する正しい知識が医療関係者に周知されることを願っています。

※1 World Health Organization Meningococcal meningitis Fact sheet No.141,Nov,2012
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs141/en/(2016年4月21日アクセス)
※2 Rosenstein NE et al:N Engl J Med 2001;344(18):1378-1388,2001
※3 不顕性感染:細菌や病原体に感染しているものの、症状を発症していない状態を指します(日本救急医学会より)

最終更新日:2014年11月28日

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